軌跡

―三浦春馬さん―

2019-09-17「アイネクライネナハトムジーク」今泉力哉×三浦春馬 インタビュー

2019年9月17日 otocotoの配信※ブログ投稿日は、実際の配信日で設定

 

以下、配信記事より

今泉力哉×三浦春馬、初タッグ作で「別の世界が現れた」「ここだけは引かなかった」シーン秘話を明かす

これまで多くの作品が映像化されてきた伊坂幸太郎と、シンガーソングライターの斉藤和義のコラボレーションから生まれた連作短編集『アイネクライネナハトムジーク』が実写映画化された。10年の時をかけて“愛とは?”を紡ぎ出す珠玉の物語の主人公となる佐藤を演じる三浦春馬と、前作『愛がなんだ』(19年)が高く評価された今泉力哉監督の対談が実現した。

初タッグ作でのお互いの印象

――初めて組んでみて、俳優として監督として、お互いどんな印象でしたか?

今泉 僕が映画学校で学んでいた時、最初の先生が古厩(智之)さんだったんですけど、三浦さんが出ていた『奈緒子』(08年)の監督でもあったので、当然観ていたし、ほかにもいろいろな大作映画やドラマなどでもちろん存在を知っていました。お会いしたことがなかったので、まさにみんなが持っているであろうイメージ――三浦さんが持っているかっこよさやオーラみたいなものを、名前にも象徴される市井の人・佐藤を演じる時に落とせたらと思っていたんです。お会いしたら「佐藤をどう演じましょうか」と言ってきてくれたので、なんかもうその一言で安心できたというか。あと、現場では本当にお芝居が好きなんだなと思っていました。

――それはどういう点で思われたのでしょう?

今泉 ひとつひとつのシーンのことをちゃんと考えていて。三浦さんって、1テイク目で正解を出せる人だから、ドラマの現場では演出をされなくてもOKが出て任されちゃうんじゃないかと思うんです。今回は映画だったこともあるし、対人間の話なので、お芝居について話して、例えば自分の演出や意見が絶対ではないという話もできたんです。こちらの言うことも「やってみます」と言って調整してくれるので、お芝居が本当に好きな人なんだなと思いました。

三浦 僕は“今泉力哉”ってネットでリサーチすることから始まって(笑)、最初に『こっぴどい猫』(12年)を観させてもらったんですけど、すごくおもしろかったです。マネージャーさんから渡された資料には、ハットを被って赤いカーディガンを着た、けっこう特徴的な監督の写真が載っていたので、個性的な方なんだな、おもしろそうだなと思った半面、ご自身の中でビジョンとか画角がキッチリ決まっていてこだわりがものすごく強くて、ともすれば頑固だったりしたらどうしようと思っていたんです。でも先ほど監督にもおっしゃっていただいたように、実はいろいろなことを共有してくれて、決して決めつけないんですよ。「これはどうかな」「そうかもしれないよね」とか、「たぶんこうなると思う」とか、すごく柔らかくアイデアを出してくれたり。だから僕もとてものびのびと芝居することができました。

――いまお話される雰囲気も柔らかい感じがします。

三浦 ビジョンがしっかり固定されているような方もいらっしゃって、そういう撮り方もおもしろいし、もちろん役者なので演出や指示に従うんですけど、今泉監督からは「映画はみんなで作るものだから否定から入りたくない」というスタンスが伝わってきました。

それぞれの佐藤像、全開笑顔のシーン秘話

――監督が思う佐藤像と、三浦さんが思う佐藤像にズレがなかったということもあったのでしょうか?

今泉 一致しているところも一致していないところもあって、それがおもしろかったですね。ひとつ明確に覚えているのが、佐藤が彼女の紗季(多部未華子)をバスに乗せて100パーセントの笑顔を見せるというシーンがあるんですよ。あの時、現場で俺は、佐藤が抱えている問題が全部解決したわけでも解放されたわけでもないのに、その全開の笑顔はアリなのか? と疑問に思ったんですよ。

三浦 ふふふ(笑)。

今泉 その時は「三浦さん、このシーンっていまの笑顔ですかね?」という話をしたんです。俺の方が(三浦より)佐藤のことをもっとまともな人間だと思っていたんですよね(笑)。

三浦 あははははは(笑)。

今泉 でも、三浦さんは「佐藤はこれだと思います」ってハッキリ言って。その時、そうか、そういえば佐藤ってバカだよなって俺も納得したというか。その時、例えば俺が「いや、まだ何も解決してないからこの全開笑顔はないです」みたいなことを言ったとしたら、そして俺が“監督は絶対だ”と思っていたとしたら、もっと抑えた笑顔のシーンになっていたと思うんですけど、俺もどっちかな? とまず思って。

――考えた結果、三浦さんの全開笑顔の方だと思われたと。

今泉 三浦さんによって、俺が思ってもいなかった別の世界が現れたから、でも不安なままOKもできないから三浦さんに相談したら、「佐藤はこれでいいんじゃないですかね」って。全部は解決してないけど、佐藤にとってひとつは解決してるからスッキリもしてますし、だいたい、彼女をバスに乗せてる時点でちょっとズレていて、あぁ、佐藤ってそういうところバカだったなって思って。でも佐藤の中ではいいことをしてるんですよ。

三浦 そうそう、いいことをしてるんです、満足なんです、その行為に。自分がいままで悶々としていた日々の答えをしっかり彼女に渡せて大満足みたいな(笑)。

今泉 彼女もいい笑顔だったしね(笑)。

三浦 根底に流れる彼のマイペースなところとか自己中心的に捉えられそうな行動っていうのは変わらないんですよね。だけどその憎めなさが彼女の中である種の決断をさせるっていうことがあると思って、このシーンだけはわりと自信を持って監督に「たぶん100パーセントで笑いますよ」と言って(笑)。ほかのシーンはいろいろと話し合いながら監督に導いてもらったんですけど、ここだけはなぜか引かなかったんです。

なかなかプロポーズしない佐藤

――ところで佐藤と紗季のパートは共感しかなかったです!

今泉 知り合いの俳優さんで、9年くらい付き合っている彼女に結婚しようと思ってプロポーズしたら、その返事が「無理しなくていいよ」だったっていう話を、ちょうどこの作品の脚本を書いている時に聞いて、この映画っぽいなぁと思いました。9年越しのプロポーズで「無理しなくていいよ」って返されるっていう(笑)。いまは結局、結婚して子どももいるんですけど。

三浦 女性の方から「もうそろそろ…」みたいなシグナルを出すものでもないんですかね。

――紗季は出していなかったようにも思えました。監督のお知り合いの二人は結局何がきっかけで結婚したんでしょう?

今泉 その時よりも売れたからじゃないですかね。普通に結婚してあげてよって思って、もうこの二人は別れるしかないんじゃないのかと怖くなったり。

――怖いというのはなぜですか?

今泉 長く付き合って別れた後、次に付き合った人とはすぐ結婚しちゃうみたいな話がよくあるじゃないですか。その二人がそういうふうになっちゃいそうだと思ったんです。長く付き合った後に短期間で結婚するのって、たぶん長く付き合ったらどうなるかわかってしまっているからっていうのもあると思うんですよね。

三浦 そうかもしれないですね。

――よく結婚は勢いが大事って言ったりしますよね。

今泉 絶対その方がいいと思いますよ(笑)。

――佐藤もなかなかプロポーズしませんよね。

三浦 佐藤もいろいろ周りのことを考えてしまったり、というのがあったんですよね(笑)。タイミングが悪かったり。

今泉 目の前の相手より、まず周りを考えてはダメな状況だったのに、佐藤はそうしてしまうんだよね。

斉藤和義による主題歌&劇伴

――本作の主題歌『小さな夜』と劇伴を手掛けた斉藤和義さんの音楽についてもお伺いしたいです。

今泉 どうでしたか? 観ていて意外なところとか想像もしてなかった感じとかありましたか?

三浦 すべてが馴染んでいたように思いますし、劇中に出てくるストリートミュージシャンの斉藤さん(こだまたいち)が歌うしっとりしたメロディーが10年経っても変わらず寄り添い続けてくれるのが応援歌になっている感じがしました。(斉藤和義が歌う)エンディングでも、すべての方が足どり軽く劇場を去って行けるような、心の音色がワントーン高くなって、ピッチが上がるような、そんな期待感しかなかったです。

今泉 劇伴も全部斉藤さんが作ってくださっているんですけど、さっきの三浦さんの芝居と一緒で、想像していないことがたくさんあったんですよ。「ここはこういう曲だと思う」って話せるところもあれば、お任せ状態のシーンもあった。例えば、10年前から10年後にわたる時の佐藤が走るスローモーションのシーンはお任せだったんですね。俺の頭の中にあったのは、アコースティックギターとかでシンプルにくるだろうっていう想像だったんですけど、めちゃくちゃ打ち込みのサウンドで、まるで宇宙みたいな曲だった。

三浦 あー、そうですね。

今泉 最初は戸惑ったというか焦ったというか、このシーンってこういうことなの? と想像を超えてきて、マジか! みたいな(笑)。夜の空気とか、あのシーンでああいう雰囲気で音数が増えていって気持ちがだんだん盛り上がっていくっていうのは僕からの指示じゃなかったので、驚きとともに、盛り上げ方のひとつのアイデアだったんでしょうね。

三浦 そのシーンの映像を観ての打ち込みだったんですか?

今泉 そうです、そうです。

三浦 へぇー、おもしろい。その話、初めて聞いた。

今泉 ひとつの楽器でひとつの音の方向に作っていくシーンではないって判断をしてくれたからこそのあの打ち込みだったんだと思うんです。群像劇だし音もいろんな音数で表していくのは斉藤さんのアイデアだったと思います。

二人が影響を受けた人とは?

――お二人のルーツになった作品や影響を受けた人物を教えてください。

今泉 僕はジャン=ウジェーヌ・アジェというフランスの写真家です。写真も素晴らしいんですけど、その方の人生がすごくおもしろいんです。もともと役者を希望したり、旅芸人みたいなことをしたり、画家に憧れて画家になろうとするんですけど全部がうまくいかない。で、その当時、画家が絵を描くための下絵を撮るという職業写真家がいたんですよ。どちらかというと芸術表現よりも食べるために写真を撮っていた人たち。アジェはそういう写真を撮る一方で、フランスの街の――しかも日常の、絵になるというよりは本当にただの日常の写真をめちゃくちゃ撮っていたんですけど、それが“近代写真の祖”みたいに言われるようになって、最終的には芸術家として評価されるんですよ。

――画家でも死後に評価される人がいますよね。

今泉 そうです。表現者になりたくてもがいていた時は全部挫折したのに、仕事のために写真家になってから、死後、表現者として評価された話を聞いた時、人生でうまくいかないこととかたくさんあるし、自分はいまなんで映画監督をやれているのかとか考えたりすることもあって。ふと、いまキツいなとか不幸だなって感じる時にアジェの人生を思うと、いまがつらくても何か糧になるんじゃないかなと思ったりもします。その人の人生の皮肉な部分も含めて、表現者としてすごく興味深いなと思います。

三浦 僕は以前、床剥がしと床貼りの体験をさせてもらったことがあって、ある職人さんについてその技術を身近で見させてもらったんです。そういう仕事はだいたい夜にすることが多いとのことなのですが、その時、僕たちが寝静まっている間にも、こんなにもたくさんの人たちが稼働しているんだっていうことを痛感したんですよね。よく落ち込んだ時に空を見上げろとか言われるけど、上じゃなくて下にも仕事って広がっていて、僕たちが踏みしめているコンクリートだって実は人の手で作られているし、人の汗や想いがあっていろいろなものが作られているんだってことをその体験があったからこそ感じられるようになったんです。仕事に対する価値観も変わったし、今度、そういう役どころが来たら役に立つかもしれないし。僕にとって、その職人さんが影響を受けた人ですね。

 

取材・文/熊谷真由子
撮影/中村彰男

出典:otocoto

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