軌跡

―三浦春馬さん―

2018-10-01「罪と罰」インタビュー

2018年10月1日 SPICEの配信※ブログ投稿日は、実際の配信日で設定

 

以下、配信記事より

三浦春馬「一線を越えてしまったという主人公の心の機微を作り上げていきたい」 舞台『罪と罰』にかける思い

ロシアの文豪ドストエフスキーの長編小説『罪と罰』の舞台化で、三浦春馬が主人公ラスコリニコフを演じることとなった。金貸しの強欲な老婆を殺し、その金で善行を成そうと企てるも、偶然居合わせた老婆の妹まで手にかけてしまったことから苦悩する、世界文学史上実に有名な青年役だ。演出はフィリップ・ブリーン、三浦とは『地獄のオルフェウス』以来のタッグとなる。三浦に作品及び役柄への思いを聞いた。

――フィリップ・ブリーン演出舞台には二度目の出演となります。

以前からまた一緒に何かやりたいねというお話はしていたのですが、具体的な作品と共にオファーをいただけたときは本当にうれしかったですね。『地獄のオルフェウス』では、大竹しのぶさんの芝居を間近で見ることができ、その芝居にものすごい反射神経で返さなくてはいけないという意味でも非常にすばらしい経験ができた現場だったんです。そのとき、大竹さんが、「フィリップって毎日のように魔法のような言葉をかけてくれるよね」とおっしゃっていて。それくらい刺激的な稽古場でした。このシーンでキャラクターのこの感情を演じてみるとなったとき、自分自身の中から出てくる感情とすりあわせていくという作業をするじゃないですか。

その際、フィリップが、過去にその感情を経験したことがあるはずだから自分の中で探してみて、あ、その目ができるということはもう見つかったんだね、じゃあそれをあたためてみて、といったことを言ってくれるんですね。みんなを操るのがうまいというか、非常にあたたかく包み込む感じでカンパニーを引っ張っていってくれたし、みんなもフィリップに絶大な信頼をおいていて、また一緒にやりたいとみんなが思っていたと思うんです。
その次に彼が日本で演出した『欲望という名の電車』は、稽古場にも本番にも行きましたが、作品のためにキャストみんなが熱を注いでいるのが舞台を観ていてもわかったし、両方の作品に出演されていた西尾まりさんからも、「絶対舞台観に来てね」とそれはすごい熱量のメールが届きました(笑)。そういう現象を作り出している源がフィリップ・ブリーンであることは間違いないので。今回、前回以上に信頼を深めて、この『罪と罰』という作品に臨みたいと思っています。

――それにしても、ヘビーな作品のヘビーな主人公、感情をすりあわせる作業も大変なものになりそうですね。

そうですよね。もちろん重大な罪を犯したこともないですし……。課題ですよね。自分自身が持ち合わせる暴力性だったり、破壊的志向というものを、ラスコリニコフが正義のもとに行なった罪とどうリンクさせていくのか、すごく興味深いところではありますよね。このキャラクターを演じるにあたっては、自分の経験や想像だけではカバーしづらいところもあると思います。フィリップからは先日あったワークショップでもこの役にどうアプローチしていくか話がありましたし、稽古場でももちろんいろいろ試したいですし、僕自身、深層心理やヒロイズムといったことに関して深く学んでいく必要があるなと。

例えば大学で心理学を学んでいたりしたら、また見方が変わっていたのかななんて思うんですけれど……。今撮影している映画で演じているのが、相手の気持ちを読んで詐欺を働く役どころだったりするので、今やっていること、今読んでいる本が意外と遠くなくて、役立ったりするのかなと思って。例えば今、コールド・リーディングに関する本を読んでいるんです。会話の中から人をうまい感じで導くという話術で、それをどう自分のセリフに関連付けていくかというのはまた難しいところではあるんですけれど、そういう本を読むことで精神的な部分での勉強になるのだろうなと思っています。あとは宗教観ですね。僕はキリスト教にはこれまでふれてこなかったので、それは勉強しなくてはいけないなと思っています。

アプローチとしては、そういった勉強ももちろんのこと、そのキャラクターと似たキャラクターの観察をしてみる。それは人でも動物でも木でもいいのかもしれない。舞台の上に人とチンパンジーがいたとして、どちらを見るかとなると、それはチンパンジーですよねと。それは、人だと次に何をするか、何となく心理が読めてしまったりするけれども、チンパンジーはどんな動きをするか予想がつかない、もしかしたら客席に飛び降りてしまうかもしれない、そういう未来を持っているところに、観客は興味をもって見入るという結果が出ているそうなんです。これってメソッドに成り得て、例えば、ある有名な役者が振り向く、そのモーメントに、そういった動物のニュアンスを入れ込んだりしていると。そんなことを書いた、リー・ストラスバーグのメソッド演技法にまつわる本を読んだりしているんですけれども、僕は舞台ではそういうことをこれまでやってきてはなかったんです。『地獄のオルフェウス』の本番をやっているときに、プロデューサーから『メソッド演技』の本をいただいて読んで、こういうやり方もある、こういうものの感じ方もあるなと思ったんです。

例えば、太陽を本当に感じるとすると、どうなるか。身体のどこがまず熱くなるかとか、昼か夕かで太陽の角度も変わってくるとか、それを、例えば「うわあ、あっつい!」とか大げさに演技をするのではなく、感じる余裕と意識の向け方が舞台に立つ以上必要であるとか、そういったことが書いてあるんです。そういうのを僕はやりたい方で。『地獄のオルフェウス』のときも全力でやってきましたが、そういったことが稽古場からはできてはいなかったな、と今は思います。だから、今回は、非常に難しくてわかりにくいキャラクターを演じる分、動物的な動きであるとか、ヒロイズムについてフィリップに投げかけて彼のいつも的確なアドバイスをいただいたりして、やったことのないメソッドも稽古場でいろいろ試してやっていきたいです。

だって、なかなかわからないですよね、正義のために人を殺めるとか、逃げ切れそうで、でも、一人の娼婦の存在によって改心していくとか……。すごくバイオレンスだけど味わい深い、なかなかない題材だと思いますね。なんか、中高生くらいで、自分は何者なんだろうと思う感覚、瞬間って、実はみんなが持ち合わせているものなのかもしれないじゃないですか。バイオレンスな話ではあるんですけれども、そういった普遍的な部分から始まるので、そんなところから一線を越えてしまったという心の機微を、みんなで作り上げていけたらいいなと思っていますね。

原作は難しいなぁと思って読んでいたんですが、脚本はすごくわかりやすいなと感じました。だけどやっぱり、難解というか、いったいこれはどういうことなんだろうっていう悩ましいシーンはあって。でも、『地獄のオルフェウス』でも、そういったシーンを現場で非常に納得しながら演じることができたんです。フィリップ自身、自分でもわかっていないということを隠さない人なんです。それで、わかった瞬間、怒っちゃったのかなとか思うくらい爆発する(笑)。椅子を蹴り飛ばすくらいエキサイトするんですよ。わかった瞬間、うれしくて。今回もきっとそんなことがちらほらあるでしょう(笑)。そんな風景を見るのも楽しみですよね。ケガ人が出ないように蹴っ飛ばしてほしいですけど(笑)。

一つ見どころとしては、殺めるシーンをどうやって表現するのかなと。演技上、殺されたことは多いんですけれども、殺すのは今回が初めてだったりするんですよね(笑)。それと、主人公が自分の罪と罰にさいなまれる過程で、原作でも何回もぶっ倒れるシーンがあるんですよ。それがフィリップの上演台本では、倒れて暗転、次のシーン、みたいな箇所があって、それを演出上どう料理するか楽しみで。そんな舞台を見たことないし、自分もやったことないよなって(笑)。十回くらいそういう暗転があるんです。そうなると、倒れたら次は何が目に映るんだろうって思うじゃないですか(笑)。その暗転の間に気持ちもスイッチしなくちゃいけないし、全然違う人物も出てきているし、これは現実なのかどうなのか、考えさせるような作りになっているんですよね。視覚的な楽しみでもあるし、作品の中でそれがどう機能するのか楽しみだし、自分としてもそんな演技をしたことがないので、フィリップと語り合って、わかりあって、やっていきたいと思っています。

 

取材・文=藤本真由(舞台評論家) 撮影=山本れお

出典:SPICE

f:id:hm-eternally:20220222065150j:plain

f:id:hm-eternally:20220222065157j:plain

f:id:hm-eternally:20220222065203j:plain

f:id:hm-eternally:20220222065210j:plain

f:id:hm-eternally:20220222065216j:plain

 

掲載内容の著作権及び商標権その他知的財産権は、配信元または当該情報の提供元に帰属します。

 

ブログ投稿記事を纏めたライブラリーサイト