軌跡

―三浦春馬さん―

2018-09-19「罪と罰」インタビュー

2018年9月19日 WHAT's IN tokyoの配信
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以下、配信記事より

三浦春馬が、盟友フィリップ・ブリーンとタッグを組む。「僕の役者人生にとって大きな挑戦」というドストエフスキー原作『罪と罰』に彼の学び続ける姿勢を見る

近代文学創始者ドストエフスキーの代表作『罪と罰』が、三浦春馬大島優子らを迎え、Bunkamuraシアターコクーンにて2019年1月9日(水)より上演される。本作演出には『地獄のオルフェウス』(15)、『欲望という名の電車』(17)での演出を高く評価されたフィリップ・ブリーンを招聘。さらに上演台本も彼が手がけ、2016年のロンドン版から新たに書き下ろし、日本版オリジナルのストーリーとして仕上げる。
哲学的な思索、社会に対する反動、それらを当時のロシアの民衆の生活状況に照らしてあぶり出しながら、「正義のためなら人を殺す権利がある」と信じるラスコリニコフという殺人者の心理を緻密に描く。
今作で主人公・ラスコリニコフを演じる三浦春馬にインタビュー。『地獄のオルフェウス』から2度目のタッグとなるフィリップ・ブリーンとの信頼関係から、今作への意気込み、演技論までを語ってくれた。

お客様の気持ちを最後まで掴んで離さない魅力的なストーリー

――近代文学の傑作、ドストエフスキー罪と罰』が、フィリップ・ブリーンさんの手によって日本で舞台化されます。フィリップさんが手がけられた脚本をお読みになられた感想をまずは聞かせてください。

とても面白かったですね。原作は書かれた時代や国も違いますから、現代の僕を含め皆さんにとって読み解くのが難しいかもしれませんが、フィリップの戯曲は、きちんとお客様の気持ちを最後まで掴んで離さない魅力的なストーリーになっています。物語のスリリングな展開、そして、主人公や彼を取り巻く人間たちの“心”の機微まで垣間見えるので、お客様は存分に楽しめると思います。そこから、人間の行動につきまとう、“善”や“悪”の間で揺れ動く気持ち、すなわち人間のアンビバレンスな感情をリアルに感じ取っていただければ嬉しいですね。「“生”や“死”とは?」、「“善”や“悪”とは?」という哲学的なテーマが幾重にも重なり、重層的な構造になっているので、一見すると紐解くのは難しい題材ですが、僕らのカンパニーがつくる『罪と罰』に向き合っていただければ、この舞台が2019年に上演される意味も含め、様々な感動を味わっていただけると思います。

――「哲学的なテーマ」とお話が出ましたが、三浦さんが感じられた作品のテーマを具体的に聞かせてください。

脚本から感じたテーマは、「自分はこの世界で何ができる?」あるいは「何をしたい?」といった“自分”と“世界”の対峙から、「自分なんかちっぽけな存在だ」と10代の学生時代に感じたような自己嫌悪の感覚、さらに「ならば自分に何ができるのだろう?」、そういった“人間”の存在に対して、答えのなかなか見つからない問いかけをしていることです。同時に、ラスコリニコフのように、モラルを超えて何かをするだけの勇気があるのかと訴えかけてくる挑発的な作品ですね。そうして、ラスコリニコフが錯綜した想いを抱きながら自分を脱皮して、跳躍するための具体的な行動が描かれています。しかしその行動は「自分は特別だから」、「自分のためではなくて人々のためだから許される」という倒錯的な動機によるもので、金貸しの老婆を殺害してしまうのですが、だからといって、「彼の行動は責められるのか? 動機と行動のズレはなぜ起こるのか? 本当に悪いのは誰なのか?」と問いかけたくなる。そんな人間同士の正義感のせめぎ合いや、悪意が激しくぶつかり合い、とてもスリルがあります。今作は、そんな“人間そのもの”を劇的に描いています。

――様々な感情のストラッグルを抱えているラスコリニコフを演じるのは、とても難しいと思います。現時点で、演じるうえでどのようなことを大切にしたいと思いますか。

帝政ロシアのお話であり、その時代の政治だけでなく、神話やキリスト教、つまり宗教も引用されているので、まず、時代背景を含め、物語の外郭に触れていきたいと思います。今作への出演が決まってから、フィリップが来日してワークショップをしたんです。そこで、とあるキャラクターを演じるのに、「別の何かに例えるとしたらなんだと思うか?」と問いかけられ、それが動物なのか、静物なのか、人智を超えたものなのか、お互いのイメージをぶつけ合いましたが、僕がフィリップに「あなたの場合は?」と尋ねたら、いとも簡単に答えられました。ですので、僕もフィリップのようにもっと深く、もっとイメージを豊かにして、ラスコリニコフの造形、彼が自分を特別視してしまう心のメカニズムをしっかりと理解したいです。そうしなければ、ラスコリニコフの感情が爆発する瞬間を表現できないと感じています。

――ラスコリニコフという人物はどんなところが魅力でしょうか。

例えば、演技で人を騙す“コールド・リーディング”という手法があります。会話をしながら相手を騙しつつ、いつの間にか自分の手口に引き込むテクニック。最たる例は占い師ですが、まるで自分の人生が当てられているような感覚に陥ることがありますよね。それは、占い師が“コールド・リーディング”をして、相手の過去の経験を引っ張り出しているからなんです。ラスコリニコフの会話には、そんな手法が散りばめられています。しかも、この手法は一種のカリスマ性が付随するので、彼は神様のように神々しい存在になってしまいます。

――人間を超えてしまう人物を演じるのは本当に難しそうです。

そうですね。なので、彼の生い立ちやその時代の社会状況、さらには居住まいまで考えつくすと、声の発し方さえ変わってくると思いますから、フィリップとよく相談したいと思っています。ただト書きに書いてあることをなぞるのではなくて、様々な方法を試していきたいですね。テネシー・ウィリアムズの『地獄のオルフェウス』でフィリップに演出されてから約4年、いろんなことに触れて成長した自分が、今どんなものを届けられるのか考えて、彼に尽くしていきたいです。

様々なメソッド(演技方法)を参考にしながら

――それでは、具体的にどのように役づくりをしていこうと思いますか。

いろいろ考えている最中ではあるのですが、僕が読んだエドワード・D・イースティの『メソード演技』という演技論本のメソッドが役に立つと思いました。その中のひとつに、舞台上に“人間”と“チンパンジー”を置いて、「お客様はどちらを見続けますか。やっぱりチンパンジーですよね。なぜだと思いますか?」と問いかけるんです。緊張して立ちつくす人間の演技は、大げさに表現して見えるだけなのに、チンパンジーは悲鳴や鳴き声をあげるのか予想がつかない。だから思わず見入ってしまう、そんな観客の心理を暴いていくものです。

――なるほど。初めて知りました。奥が深いですね。

映画『ゴッドファーザー』であれば、アル・パチーノの一瞬の振り向きに「何を感じますか?」と問いかけて、「そうなんです、ゴリラを演じているんです」と意味付けをしたりする。もちろんゴリラを演じているわけではないですよ(笑)。つまり、僕らの身体の動きが、お客様に象やテナガザルといった動物さえ想像させるスペースを演技でつくる必要があると提示しています。今作であれば、先のメソッドだけではなく、様々な過去のメソッドを参考に、ラスコリニコフに漂うヒロイズムを模索しながら、柔軟で複雑な演技を心がけたいです。フィリップは「この戯曲は、7年間まるで心臓の鼓動のように私の中に生き続け、私が大事にしてきた戯曲です」とおっしゃっていました。その言葉の重さを感じたので、相当な覚悟で臨まないといけないと思っています。そうでなければ、彼の要求したものに近づけないですから。

コールド・リーディング”のように役者そのものを引き出す

――2015年にご一緒されて以来、フィリップさんの印象はいかがですか。

とにかく彼は“コールド・リーディング”のように、役者をその気にさせてしまうんです。例えば、悲観的な気持ちを表現しようとして、どんな言葉のチョイスがいいか迷っていると、「そんなに考え込まなくていいよ」とおっしゃって、「ちょっと思い出してみて。だいたい幼少期に似たことがあったよね」と僕の意識に入り込んで、そこからだんだん“三浦春馬”という存在そのものを引っ張り上げてくれるんです。

――フィリップさんからアドバイスされて印象に残っていることはありますか。

アドバイスであれば、直裁的な言葉ではなく、幻想的な言葉を使われるケースがあります。あるふたりが身体表現で曲線を描きながら“湖”を表現するとする。そのはずなのに、体のフォルムで客席にいる観客からは“船”に見えてしまうことがある。僕らが表現していることが、お客様からは違って見える、そんな異なるイメージがぶつかる演技が大切だとおっしゃってくれるんです。一緒にいると毎日ワクワクさせられますね。彼にはカリスマ性があって、自分がやりたいことを、僕たちが誰でも知っているストーリーに変換して伝えてくれるからキャラクターを想像しやすいし、たとえ違った解釈をしても面白いとおっしゃってくれる。とにかく否定をしないんです。マニュアルどおりではなく、自然と僕らの方向性を導いてくれる方です。

――三浦さんもフィリップさんに絶大な信頼を寄せているのですね。

はい。今作でもお声がけいただいて嬉しかったです。2015年のときもたくさんのことに気づかされましたし、役者として成長させてもらった経験をして。お互い国は違うけれど、ひとつの作品に真摯に向き合える喜びを分かち合えたのもフィリップのおかげだった。もちろん、そのときに共演した大竹しのぶさんがいてくれたのも大きかったのですが、大竹さんや僕も、彼は「魔法の言葉を持っているよね」というほど信頼感があったので、『罪と罰』のように難しい題材でも、稽古をしていけば、役の想いや人物像が毎日クリアに見えてくると思います。

役者というものは、“仕事”という名の“自己実現

――そんな三浦さんは7歳という若さでデビューされます。そこから年月を重ね、役者とはご自身の中でどんな存在になっているのですか。

いろいろな考え方があると思いますが、僕の場合は、“仕事”でしょうか。そして僕にとっての“仕事”とは、“自己実現”なんです。役者は、僕が商品で、僕を買ってくださる演出家さんやプロデューサーさんたちがいるという純粋なやりとりで成立する“モノ”になってしまうことがありますから、どんな自分でありたいかというしっかりした役者像を確立させなければ、僕の価値がなくなってしまうと思っています。

――“演じる”うえでのこだわりはありますか。

出演するどの作品でも、新しいエッセンスに挑戦したいと思っています。新しいトライをすることが好きなので、いろんな方向から役どころや作品を俯瞰するように心がけて、僕らの演技で観る方の想像力を喚起するスペースをつくることにこだわっています。

――三浦さんが本当の演技をしていると思った瞬間はいつだったのでしょう。

7歳のときにNHK連続テレビ小説あぐり』でデビューする前、児童劇団にいるときからお芝居をしている実感はありました。それでも、地球ゴージャスプロデュース公演『星の大地に降る涙』(09)、『海盗セブン』(12)に出演したときは、むしろ怖かったというか、ダンスや歌はお芝居ではないような違和感を持っていました。でも、袖で見ているとプレイヤーの踊りや歌もしっかりした芝居に思えて、恐怖心が次第に消えていったんです。今考えると“地球ゴージャス”からは踊りや歌も芝居の一環だと学んだのだと思います。

――“地球ゴージャス”ですと、岸谷五朗さんや寺脇康文さんから学んだことが大きいでしょうね。

そのとおりだと思います。岸谷さんや寺脇さんからたくさんのことを学びました。それから、劇団☆新感線ZIPANG PUNK〜五右衛門ロックⅢ』(12)では、古田新太さんからも学びました。どんなカンパニーに入っても学ぶことに終わりはないので、僕の役者人生は果てしなく長いです。

台詞という言霊に真心を込めて

――一番印象に残っているアドバイスはありますか。

岸谷五朗さんに「大千穐楽のときはどんな思いで望めばいいですか?」と聞いたんです。そうしたら「千穐楽というのは、一生懸命練習した台詞が言霊のようにどんどん消えていくから、お別れをする作業なんだよ。稽古に励んでつくってきた台詞は自然と消えてしまうから、真心を込めて過ごしなさい」とおっしゃられたことが心に響いています。やはり、日々一回だけのライブが舞台の魅力だと感じさせてくれますね。

――私の中で三浦さんは人生のすべてをかけて“役者”でいる“全身全霊役者”というイメージを勝手に抱いていたので、お話しさせていただいて、そのとおりの方だなという印象を受けています。来年の『キンキーブーツ』の再演への出演を含め、今後どのような舞台活動をしていきたいですか。

“全身全霊役者”って(笑)。ありがとうございます。これからは年に一度は、ストレートプレイ、あるいはミュージカルにも挑戦していきたいと思っています。来年は今作だけでなく、ミュージカル『キンキーブーツ』も待っているので、役者として恵まれていることを実感しています。

役者人生にとって大きな挑戦になる

――それでは、最後にお客様にメッセージをお願いします。

罪と罰』は、僕の役者人生にとって大きな挑戦になると思います。ラスコリニコフを通して、人を殺めることや、その罪からくる天罰のような“卒倒”という行為をどう自分が解釈していくのか、どこまでリアリスティックに演じられるのか、そんな難しさがあると思います。ただ、人の行動にはかならず理由があると思っているので、どの行動も丁寧に台詞に紐付けて、意味を持たせることを心がけたいですね。もちろん、僕やフィリップだけではなく、大島優子さんをはじめ、実力のある先輩方との間に生まれる化学反応も楽しみに、劇場にいらしてください

 

取材・文 / 竹下力 撮影 / 冨田望

出典:WHAT's IN tokyo

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