軌跡

―三浦春馬さん―

2013-12-04 働き方・学び方 ダイレクトメッセージ Vol.3

2013年12月4日 NIKKEI STYLEの配信
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以下、配信記事より

働き方・学び方 ダイレクトメッセージ Vol.3
監督にボールを投げた……見送られた!

永遠の0」では、最初から監督にたくさん迷惑をかけました。特攻隊でなくなった実のおじいちゃんのことを知るために、僕が演じる健太郎は当時のことを知る人を訪ねて回ります。

山崎監督との攻防

田中泯さんが演じる、おじいちゃんの特攻の仲間を訪ねるシーンが撮影の初日だったんです。健太郎がまだ、お姉さんに嫌々ついて行くだけで自分のおじいちゃんのことを本気で調べる意欲がないときで、そのときは景浦(田中泯)邸から追い返されるんです。

このあと、いろんな方に話を聞いて、おじいちゃんのことに興味を抱き始めた健太郎が、また田中泯さんのところを訪れるわけです。

「僕の本当のおじいさんのことを教えて下さい」と頼み、そこでもまた衝撃的な事実を聞かされるのですが、その第一声目に15カットくらいかかったんです。「僕の本当のおじいさんのことを教えて下さい」というセリフの撮影だけに15カット。「もう一度」とカットがかかるたびに、監督からもっともっと感情を出してくれ、といわれ続けました。

自分では気持ちを高めているつもりでも、表情には出ていなかったり、わかりづらかったり、ということだったと思います。やっぱり見ている人に伝えられないと役者ではないので。

セリフのない芝居の難しさ

特に今回は「聞き役」の多い役ですから、相手のセリフを受けて、ぐっとくる芝居をしなくちゃいけない。セリフなしに表情だけで語らないといけなかった。今思うと、本当に難しかったです。

もっと感情を出してくれ、という言葉がどんどん監督から飛んできたので、こっちならどうだ、こういう気持ちの作り方ならどうだろう、と試していきました。言葉ではなく、感情や表情での表現の幅を試して、監督に何度もボールを投げるわけです。

「監督はそれを……打たないのか! ああ、見送った!」って。NGということですから。ああ、いい球じゃなかったんだ、って。時間がたつにつれて不安になりました。

演じすぎ、それは…

今回、僕の演じた佐伯健太郎は、周りの反応から「君ならいけるよ」といわれていた司法試験に何度も落ちて、やる気も少しうせている、という役だったので、少し暗いんじゃないかなと考えていました。

でも監督とお会いして「どういう風に演じていきましょうか」と相談したら「わかりやすくダメダメなキャラクターでいいです。暗いというより明るさで少しごまかしているような、そういうキャラクターにしてください」という指示をもらいました。そこは、自分が思っていたキャラクターとは違っていたので、その言葉を消化しきれないというか、すんなり入ってくるものではなかったです。

また、演じすぎるのもいやだな、という気持ちもありました。田中泯さんとの場面でもそうでしたが、橋爪(功)さんとの場面でもやり過ぎなんじゃないかなと思ったりしていました。

物語の最初の方でしたから、健太郎も(橋爪さんの話を聞いて)「ああそんなことがあったんだ」というのはあるんですけれど、そこから「おじいさんのことを調べたいんだよ」と自分から意欲がわいていくまでには、もうちょっと煮詰まったものがないと、と思ったんですね。だからその場面はそんなに涙ぐんで、という感じじゃないんじゃないかな、という葛藤もありました。

演技をすることの難しさ

自分の感覚と演出家が思っていること、お客さんの思っていることが合致しないことがあります。これはとても気持ちが悪いです。演じていても、できあがったものを見ても、自分のなかでは成立しているんだけれども、監督や視聴者が「それは違うよ」といえばそれだけの結果です。自分がどんなに満足して、いい芝居をしたと思っても、最後は周りの評価しかないんです。

ただ、はたして自分の気持ちを押し殺して監督と視聴者が求めるものをやり続けたら成功するかといえば、そうでもないような気もします。自分が今何を求められているかということと、自分のやりたい芝居というものを合わせて表現していくことは難しい。難しいけれど、それが大切なんだと思います。

 

メイク:MIZUHO(vitamins)/スタイリスト:池田尚輝

出典:NIKKEI STYLE

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